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2007年2月
特別編 「バベル」(Babel)出演女優、菊地凛子本誌独占インタビュー
この作品に出て、恋することに臆病でなくなりました
人を愛することに自由になれた気がします
カンヌ映画祭での最優秀監督賞を含む3部門受賞を皮切りに、米映画批評会議賞、米ゴールデングローブ賞など、数々の映画賞に輝いている話題の新作映画「バベル」。作品の中で展開する複数の物語のうち、東京を舞台にしたストーリーで役所広司とともに重要な役割を演じた若手女優菊地凛子は米映画批評会議賞新人女優賞を受賞、米ゴールデングローブ賞では助演女優賞にもノミネートされ、アカデミー賞のノミネートも有望視されている。本誌編集部は1月15日の米ゴールデングローブ賞授賞式を目前に控えた菊地凛子への独占インタビューに成功、作品への思いを語ってもらった。
1年間続いたオーディションは1,000倍の難関
「米映画批評会議賞新人女優賞は大変光栄に思っています。でも、ゴールデングローブ賞ノミネートについては正直実感がわかないんです」
激しい感情をむき出しにしていたスクリーンでの彼女とは裏腹に、歴史ある映画賞受賞の感想に答えた第一声は柔らかく落ち着いていた。
「作品のオーディションは1年間に渡り何回も繰り返されました(通常オーディションは長くても1〜2ヶ月)。異例の長期オーディションは精神的にとてもきついものでしたが、瞬発力とは違う、演技における集中力や持久力を学ぶことができました。とても良い経験だったと思います。1,000倍の難関を勝ち抜き、最後にこの役をいただけた時はとにかく素直に嬉しかったですね。感動しました(笑)」
大好きなケイトとの共演
聴覚障害を持つ高校生チエコを演じた菊地。聴覚障害者の役を演じるため、手話を勉強したり、ろう学校へ通って「実際の生徒達がどんな格好をしているか」研究したりと、役作りに励んだ。その演技は共演者のケイト・ブランシェットをして、「本当に耳が聞こえないのかと思った」と言わしめたほど。昨年末、シドニーで行なわれた「バベル」のオーストラリア・プレミアに姿を見せたケイトは本誌記者に対し、「凛子の演技は大胆で個性的。しかも二面性がある。壊れそうでいて悪魔的な要素を持っている」と菊地の演技がいかに素晴らしいかを熱く語ってくれた。その時のケイトの絶賛ぶりに彼女は大喜び。
「嬉しいですね。ケイトは昔から尊敬してきた大好きな女優さんです。撮影中は会うことがありませんでしたので、カンヌ映画祭で彼女に逢えるのをずっと楽しみにしていました。授賞式の日、真っ先に私のところにやってきてくれて、"凛子の演技良かったわ、素晴らしかったわよ"と言ってくれたんです。体の芯がじ〜んと暖かくなった瞬間でした。さらに今日は、私のいないところでも、ケイトがそんなふうに私のことを褒めてくれたと聞き、嬉しいです。これから頑張るための力になりますね」
作品への思い
リアルな演技とともに注目を集めたのは、彼女のヘアヌードシーン。孤独なチエコは周囲の関心を惹こうと自らの肌を露にする。ヘアヌードになることに抵抗はなかったのだろうか。
「あのシーンは作品になくてはならない必然的なものでした。抵抗は全くなかったですね。それに、もともと女性の裸はとても美しくて綺麗なものだと思っていますから」
ヌードになることを躊躇させなかった、作品への揺ぎない信念の基盤となったものはアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督への強い信頼感だった。
「監督と仕事をした全ての時間が学びの時でした。監督は、子役を始め全ての俳優に敬意を払い、常に暖かい気遣いをする人で、この人なら信頼できると思いました」
父親役を演じた共演者の役所広司については、
「映画が大好きな私にとって、役所さんと言えば大スター、スクリーンの中の人です。難しい関係の父娘を演じたため、役所さんはカメラが回っていない時も私との間の緊張感を維持するため、何かと気を遣ってくださいました」
「作品の中で描かれるいくつかの物語のうち、"日本"は核となるストーリーです。今回作品の宣伝のため、様々な国へ行き、いろいろな人達と逢い、自分の中にあった外国に対する先入観がなくなりました。映画で込められたメッセージ、"心の中に国境はない、言葉より大切なものがある"を実感しています。一人の女性としては、恋することに臆病でなくなった、人を愛することに自由になれた気がしています」
映画にとらわれて
「家族みんなが映画好きで、私も小さな頃から映画とともに成長しました。映画が全てを教えてくれたと思っています。だからスカウトされた時、まず始めに思ったことは"私にも映画ができるかな"ということでした。デビューは1999年の「生きたい」(新藤兼人監督)で、それ以後も映画を中心に活動しています。映画にとらわれて生きているんですよ」
数年前、東京のミニシアターで見た映画が今でも心に残っている。その作品は、寺島進主演の「空の穴」(熊切和嘉監督)。ヒロイン妙子を演じたのが菊地だった(当時の芸名は菊地百合子)。寺島演じるトラウマを抱えて大人になれない男を、男に捨てられた妙子が母のように癒し包み込む。ゆるくて、曖昧で、かわいい女、妙子。強烈で、明確で、激しさを感じさせるチエコとは対照的だ。妙子とチエコ、役作りを越えた菊地自身のキャラクターにも通じるところがあるように感じてならない。「空の穴」以降、何か転機となるような出来事が起こったのだろうか。
「う〜ん、そうですね、あったと思いますよ。私はアングラ系と言われる作品を中心に出演してきましたが、映画出演を重ねる度に、女優としての枠を超えて、人間として私の中に激しさや、諦めない強さが蓄積されてきたように感じます。また、映画のプロモーションのため各地を訪れる度に観客の皆さんからの反響を受けるわけですが、そういった励ましも私のエネルギー源となっているんだと思います」
彼女の中に少しずつ蓄積されていた激しさが、大きな力となってついに「バベル」で花を開かせたのだろう。
オーストラリアで乗馬を
「オーストラリアにはこれまで仕事で2回行きました。そのうち一度は千葉ロッテマリーンズのキャンペーンだったのですが(菊地はマリーンズのTVCMにOLよしこ役で出演、人気を博している)、広い大地と青い空がとても印象に残っています。ヘリに乗ったり、ボートに乗ったりとても楽しかったですね。機会があったらぜひまた行きたいです。私は乗馬が趣味なので、今度行った時には思い切り乗馬をしたいですね」
オーストラリアにはとても良い印象があるのか、とたんに声がはずんできた。権威ある映画賞受賞やノミネートで一気に世界の注目の的となったが、そこに気負いや傲慢さは全くない。インタビューを通して感じられたのは、礼儀正しい人柄と映画への情熱とこだわりだった。
バベル
Babel
「アモーレス・ペロス」「21グラム」のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品。今回も複数の場所での出来事が複数の時間軸に沿って描かれ、それぞれの物語が次第に交差していく。舞台はモロッコ、米国カリフォルニア州、メキシコ・ティワナ、東京・赤坂。出演は、ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ガエル・ガルシア・ベルナル、役所広司ら。母を亡くし父(役所)と二人暮らしのチエコ(菊地凛子)は聴覚障害を持つ高校生。友人と楽しい時間を過ごしながらも、彼女は母を亡くした痛みを抱えていた。(絶賛公開中/M)
菊地凛子(きくちりんこ)プロフィール
1981年1月6日神奈川生。1999年「生きたい」でデビュー。2001年には「空の穴」でヒロインを演じる。「茶の味」(2004年)、「誰がために」(2005年)、「ナイスの森」(2006年)、「笑う大天使(ミカエル)」(2006年)などに出演後、「バベル」でハリウッド進出を果たし、その演技で米映画批評会議賞新人女優賞を受賞、世界中から絶賛を受ける。
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