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シドニーの月刊日本語情報誌 「Japaralia」に連載中の映画評を掲載しています。
Text by 竹内牧子

2007年12月

男と女の不可解で深い関係

クレージー・ラブ(邦題未定)
Crazy Love
(M)

  バート・ブガッシュとリンダ・リスという、アメリカ人カップルをご存知だろうか。1959年、NYで起きたあるショッキングな事件から現在に至るまで、二人は常に全米のマスコミと世間の注目を集めてきた。彼らにカメラを向け、インタビューと記録映像で綴ったのが本作「クレージー・ラブ」である。

 1957年、若く美しいリンダと出会い、一目で恋に落ちたバート。やり手の弁護士であった彼は、自家用機や自分が経営するナイトクラブで連日リンダを楽しませる。そんなバートに次第に惹かれていった彼女だったが、彼には妻子が。身を引き別の恋人と婚約するリンダ。彼女を忘れられないバートは、ストーカー行為の果てに、とんでもない凶行に出る。男を雇い、リンダの美しい顔に薬品をかけたのだ。チャームポイントだったリンダの大きな目は醜く変形し、視力もほとんど失ってしまう。

  愛情を憎しみに変えてしまった男の狂気は世間を震え上がらせ、美貌と光を失った絶世の美女は人々の同情を買った。しかし、半世紀もの間、世間を騒がせ続けたこの二人の関係はここからが本番なのだ。1974年、14年間の服役を終えて出所したバートは何と、TVのインタビューでリンダにプロポーズをする。そして驚くべきことに、彼のプロポーズから9ヵ月後、二人は結婚してしまう。ありえない展開は世間を大いに驚かせたものの、二人は「ナイスカップル」としてセレブ的な存在に祭り上げられることになる。この時、事件からは15年が経っていた。

  大切なものを奪った男と結婚する、そんな理解しがたい決断を下したリンダのことを、同性としてどうしても考えずにはいられない。現在バート79歳、リンダ68歳。子どもはいないが結婚から三十数年、今も幸せに暮らしている。掃除、洗濯、買い物から食事の支度まで、家事の全てを負担するのはバートだが、老人の身には楽なことではあるまい。「こうして毎日、彼に罰を与えているの」とはリンダの言葉。ジョークであり、真実。愛する人の元で一生涯、望んで刑に服すバート。美貌と光は失ったものの、リンダは人生の主導権までは離さなかった。ただ―もしもバートが第三者を使わず、自らの手でリンダに傷を負わせていたとしたら、どうだったろうか。それでも彼女は彼のプロポーズを受け入れることができただろうか。答えはノーのはず。二人の間に最後の砦が残されたことは、神の思し召しだったのかもしれない。

2007年11月

甘いパイが人生を変える

ウェイトレス〜おいしい人生のつくりかた
Waitress (M)


 
アメリカ映画には、田舎町にある何の変哲もないダイナーがよく出てくる。そこには大抵、ちょっと下品で声が大きくて、でも惚れっぽくて人情のあるウェイトレスが働いている。常連客と品のないジョークで笑いあったり、同僚達と休憩中に恋の悩みを相談し合ったりする彼女たち。私はそんなウェイトレスが出てくる映画が、実は大好きだ。お気に入りの映画、マーチン・スコセッシの初期の秀作「アリスの恋」(74年)にもウェイトレスが出ていたっけ。

 ジェンナ(ケリー・ラッセル)はダイナーで働くウェイトレス。パイを焼くのが得意な彼女の夢はパイ・コンテストに出場すること。しかし夫のアール(ジェレミー・シスト)は妻の活躍を望まず、ジェンナは夫の暴力に怯えつつ、自分の人生を半ばあきらめて日々をやり過ごしていた。そんな時思いがけなく彼女の妊娠が判明する。

 彼女の作った美味しいパイのせいなのか、こともあろうか診察にあたった産婦人科医のポマター(ネイサン・フィオリン)と深い仲になってしまうジェンナ。ありえない展開に驚く同僚ウェイトレスのベッキー(シェリル・ハインズ)とドーン(エイドリアン・シェリー)。夫とよりをもどすのか、それとも医者と駆け落ちするのか?ベッキーやドーンの恋愛や、ジェンナとの会話を楽しみにダイナーへ通う気難しいオーナー、オールドー・ジョー(アンディ・グリフィス)からの素敵なプレゼントもサイドストーリーとして織り交ぜながら、物語はダイナーを中心に流れていく。見てのお楽しみだが、最終的にジェンナが下した結論は納得できるものだった。ただ一つだけ残念なことは、本作の監督・脚本も手がけたドーン役のエイドリアン・シェリーが作品の完成直後、不幸な事件の犠牲者となり命を落としてしまったこと。本作は、彼女自身が子供を身ごもった時、「この先自分の人生はどうなるのだろう」と不安と恐怖でいっぱいだったという体験をもとに書いたのだという。女優、監督、脚本家、さらには各国の映画祭の理事や大学の講師も務め、七面六臂の活動を見せていたシェリー。もっともっと活躍してほしかった。

 そういえば、先述の「アリスの恋」も夫を亡くした子連れの主人公が、ウェイトレスをしながら歌手になるという幼い頃からの夢を実現させようとする映画だった。結婚しても、子供がいても、夢を忘れず勇気をもって一歩踏み出すことができれば、何歳になっても女性は美しく輝ける。この映画を見てそう思った。


2007年10月

トラボルタが久しぶりにダンスを披露

ヘアスプレー
Hairspray
(PG)


 しかしこの人はいつまで進化し続けるつもりなのか。この人とは、新作映画「ヘアスプレー」でヒロインの母親役を演じているジョン・トラボルタのこと。母親と書いたが、誤記ではない。

 60年代のボルチモア。トレイシー(ニッキー・ブロンスキー)はダンスのことしか頭にない高校生。かなり太目の彼女だがそんなことは一向に気にしない明るい性格。ダンスへの情熱が番組司会者のコーニー(ジェームズ・マースデン)や人気者リンク(ザック・エフロン)らに伝わり、レギュラー出演者の座を勝ちとることになる。トレイシーの人気が上昇する一方で、偏見を持たない素直な彼女は番組の黒人差別規定を取り払おうとする。差別反対デモに参加した彼女は警察にも追われる身となってしまうのだったが・・・。

 わかりやすいストーリーの上、ミュージカルなので物語は軽快に流れていく。しかし前半は正直言ってなんて退屈な作品なのだろうと感じてしまった。それはダンス番組での容姿端麗な白人男女のダンスが平板でつまらなく思えたからだ。俄然面白くなるのは、肥満体のトレイシーがコロコロと踊り出し、それとともに黒人ダンサーたちのリズム感溢れるソウルフルなダンスが披露される頃から。ここで冒頭のトラボルタ演じる母親に戻るが、太めな自分の姿を恥じ、長年家の中で引きこもり生活をしていた母親が娘の活躍に勇気づけられ、外の世界へ一歩踏み出す姿はじ〜んとさせられる一幕だ。太った人も、やせた人も、白人も、黒人も、いろんな人がいていい。コメディだが作品のテーマは普遍的で深い。

 トラボルタと言えば、「サタデー・ナイト・フィーバー」や「グリース」で一世を風靡した後、落ち目の時代が長く続いたことは有名。「パルプフィクション」での殺し屋役で新境地を開拓、カムバックを果たし、以降スポットライトを浴び続けている。そして今度は特殊メイクで、「あっ、こんなおばさん、いるいる!」と誰もが思ってしまう、可愛い太っちょおばさんに大変身した。この人はこれからもこうして新しい顔を見せ続けてくれるのだろうか。

 こうした大掛かりな特殊メイクによる変身には賛否両論あるだろう。でも普通の中年女性がこの役を演じたところで面白くはない。かつてジャーリーズ・セロンが全身に特殊メイクを施し、醜い連続殺人犯のヒロインを演じた「モンスター」を見た時も感じた。あの美しいセロンが演じているからこそ価値があるのだ、と。今回もトラボルタが演じているからこそ、そのパワフルなダンスに一見の価値があるのだと思う。


2007年9月

小さな小さなラブソング

ワンス(邦題未定)
Once (TBA)


 男がいる。穴のあいたオンボロギターを弾きながら、ダブリンのストリートで毎晩歌を歌っている。足を止め、男の歌に耳を傾ける女がいる。

 男(グレン・ハンザード)には、いつかコンサートを開いて自分の歌を歌いたいという夢があった。しかし、長年の恋人に去られた彼は自信を失くし、どうしても新しい曲を作ることができずにいた。女(マルケタ・イルグローヴァ)はチェコから移民してきたばかりのシングルマザー。新しい街で清掃の仕事をしながら女手一つで娘を育てていた。彼女はピアノを弾くことができ、男とともに楽器店のディスプレイ用のピアノで、バスの中で、何時間も一緒に歌を歌った。女と過ごす時間からインスピレーションを得た男はいつしか、あきらめかけた夢をもう一度目指そうとする。やがて新しい曲が生まれ、仲間のストリート・ミュージシャンを加えてバンドを組み、念願のデモテープが遂に完成するのだった。

 男と女が出会い、一緒の時を過ごして、そして―。ストーリーはこの上なく簡潔だ。加えて、この物語の登場人物には名前もない(男は"Guy"、女は"Girl"とだけクレジットされている)。しかしこれほど余韻を残す作品を、私はあまり多く知らない。大成功に終わった録音作業の喧騒が収まった後、明かりの消えた静かなスタジオにいる二人。静かに弾き語りをする女。胸の奥にしまっていた、別れた夫への思いがあふれ彼女の頬を涙がそっと流れる。ずっと男を励ましてきた気丈な彼女が初めて弱さを見せ、今度は男が優しく見守る。けれど過去の恋にけりがついていない二人だから、恋人になることは決してない。余計なものは一切なく、美しい情景とアコースティックな歌声があるだけだ。シンプルさゆえの力強さだろう。ちなみに、主演の二人はプロのミュージシャン(グレン・ハンザードはアイルランドの人気ロックバンド、フレームスのリードボーカル、マルケタ・イルグローヴァはチェコのシンガーソングライター)で、曲のほとんどは二人が手がけている。歌の方はさすがプロと納得したが、驚くことに演技は初体験だったそうだ。
 
  ところで、この小さなラブソングは、2007年のサンダンス映画祭で観客賞を受賞したほか、世界中で大きな評価を受けている。対極の価値観を持つハリウッド映画の重鎮、スピルバーグさえもこう言った。「この小さな映画から今年の映画製作のインスピレーションをもらった」筆者にとっても今年のベストワンに挙げたい作品である。

2007年8月

アウトバックのロードムービー

ゴーン(邦題未定)
Gone
(M)

 
  オージー映画にはアウトバックを舞台にしたロードムービーの系譜がある。代表的な「プリシラ」(94年)をはじめ、「バックロード」(77年)、「サイアム・サンセット」(99年)、「ジャパニーズ・ストーリー」(03年)といった作品が挙げられる。赤土の大平原や原色の青空といったダイナミックな自然美には、映画の舞台にせずにはいられない魅力があるのだろう。

 「ゴーン」もその一つ。イギリス人カップル、アレックス(シャウン・エバンス)とソフィー(アメリア・ワーナー)は、オーストラリアを旅行中、アメリカ人のテイラー(スコット・ミーチロウィッツ)と出会う。テイラーの勧めで、本物のオーストラリアを体験しようと、3人はアウトバックへと旅立つ。始めは旅を楽しんでいた彼らだったが、テイラーはソフィーに好意を示し、次第にそれをあからさまにしていく。アレックスは憤慨しテイラーを遠ざけようとするのだが、ある弱みを握られている彼は強く反撃することができない。アレックスが嫉妬に狂えば狂うほど、理不尽なことにソフィーはアレックスを疎ましく感じ始め、逆にテイラーとの距離を縮めていく。そんな時、テイラーに注意をそがれたアレックスは運転中にカンガルーと激突、顔面に大怪我を負ってしまう。今後のことを決めようとモーテルに向かった3人だったが、ある夜アレックスが突然姿を消してしまう。ボーイフレンドの突然の失踪に始めは悲しんだソフィーだったが、この後はテイラーと行動を共にしようとあっさり決めてしまうのだった。そして2人の旅が始まったのだが・・・。

 甘い青春映画のノリで始まったと思ったら、次第に心理サスペンスへと移行していく。巧妙なやり口でじりじりとアレックスを追い詰めるテイラー。アウトバックの真っ赤な夕焼け空が静かな恐怖を効果的に高めている。テイラーは誰かに愛されたくて、しかし一度も十分な愛情をうけたことがない男。ソフィーを手に入れたいと思ったのも、愛し合う二人が妬ましかったからなのだろう。テイラーを演じるのはスコット・ミーチロウィッツ。愛に飢えた捨て犬のような、母性本能をくすぐる良い表情を見せる。青春ラブコメディー「ユーロトリップ」で主役を演じた時の軽いノリの彼とはまるで別人だ。

  旅人が2人になった瞬間、 静かな心理ゲームは様相を異にし、激しい殺戮ゲームへと変化する。静かな恐怖を丁寧に描いて楽しませてきてくれただけに、唐突で乱暴なエンディングが惜しい。

2007年7月

夢なのか、現実なのか、それとも・・・

プレモニション(邦題未定)
Premonition
(M)

  ハンサムで優しい夫ジム(ジュリアン・マクマホン)と可愛い二人の娘とともに郊外の広い家で暮らすリンダ(サンドラ・ブロック)。誰もがうらやむような理想の生活を送っていた彼女に、信じられない知らせが届く。ジムが交通事故で亡くなったというのだ。涙に暮れて眠りにつき、失意のうちに翌朝目覚めた彼女が目にしたものはなんと、普段と代わりのない夫の姿だった。

 と、冒頭は興味を引く滑り出し。交通事故は夢だったのかと安堵するリンダだったが、さらに翌朝目覚めると、しかし夫は亡くなっていて、葬儀のため集まった近親一同の彼女に対する態度はどこかただならぬ様子。上の娘が顔に大怪我をしており、その原因がどうやら自分に関係があるらしい。現実の事態はさらに悪化している。そして次の朝目覚めると、そこには再び元気な夫の姿があり・・・。


 結局、事故の前後の一週間が順不同でリンダに訪れていく。事故が起こった日にどうやら謎があるらしい。タイトルの"premonition"には「予兆、前兆、予告」といった意味がある。彼女が見ている世界は、夢なのか、現実なのか、それとも何かの予兆なのか。リンダは事故が起こった日に戻り、夫を事故から救い出すことができるのか・・・、そんな話かと思って見ていると、ここで意外にも夫の背信が明らかになる。「理想の夫、完璧な生活と思っていたのに。信じていたものは何だったのか」と、別のストーリーが始まってしまい、どうもすっきりしない。当初のプロットだけで面白いのだから、シンプルにしたほうが絶対に良かったと思う。

 ストー
リーはいまひとつなのだが、ヒロインのサンドラ・ブロックはこの頃とてもいい感じ。「スピード」でデビューした当時など、若い頃はあまり惹かれる女優ではなかったが、年を重ねた現在の方がその魅力、ゴージャスさに磨きがかかっている。それにしても42歳にしてこの美貌は立派。夫役のオージー俳優ジュリアン・マクマホンも、元来はTVシリーズで活躍する俳優であったが、このところ映画での活躍も目立ってきている。ちなみに父親は第20代オーストラリア首相のウィリアム・マクマホンで、自身も名門シドニー・グラマー・ハイスクールを出てシドニー大学で法律を専攻した秀才だ。好キャストが揃っており、作品自体がもっと良くなっていたはずだけに残念。 

特別編 「ファンタスティック・フォー:銀河の危機」
(Fantastic Four: Rise Of The Silver Surfer))


レッドカーペットに四人のヒーローが登場!

 アメリカの人気コミックから生まれた超能力ヒーロー「ファンタスティク・フォー」の最新作「ファンタスティック・フォー:銀河の危機」のオーストラリア公開(6月21日)に先立ち、招待客を集めたプレミア上映会が5月2日、ダーリングハーストのレストランで開催され、四人のヒーローを演じるヨアン・グリフィス、ジェシカ・アルバ、クリス・エヴァンス、マイケル・チクリスがレッドカーペットを歩いた。主役の四人が揃って登場するとあって、多数のマスコミやファンが駆けつけた。主役の四人は終始和気あいあいと語り合いながら取材に対応、チームワークの良さを見せてつけていた。ところで、オーストラリアでのレッドカーペットは来場するスターがビックであればあるほど待ち時間が長いことが多く、今回も知名度の高さというより頭数の多さからかぴったり2時間待ち。いつものことだが、これだけ待たされても他のメディア関係者(大手テレビ局や新聞社)は全く動じていなかった。さすがはオージー!

2007年6月

アメリカに敵視されたジョン

アメリカ合衆国対ジョン・レノン(邦題未定)
The U.S. vs. John Lennon(M)

 ジョン・レノンがNYのアパート前で狂信的なファンの凶弾に倒れてから早いもので27年になる。没後30年近くの年月が流れてもなお、映画やTV番組で彼の音楽を耳にしたり、雑誌で彼の名や写真を目にしたりすることが多いのは、ジョンの音楽やメッセージが今も全く色あせることなく人々の中に残っているからだろう。

 ビートルズの活動が終わりを迎えようとしていた頃、オノ・ヨーコと出会ったジョン。"Give peace a chance"というあまりにも有名なメッセージ、 二人が行なった平和のための「ベット・イン」についてはもはや説明は不要だろう。音楽を通じて世界平和を訴えたジョンとヨーコであったが、時は60年代後半、ベトナム戦争が激しさを増していた時代。当時のアメリカ・ニクソン政権は反戦活動家としてのジョンを大いなる脅威と感じていた。作品は、66年から76年の十年間のジョンに焦点を当て、彼に対する政府の監視、妨害、規制を関係者のインタビューを織り込みながら描いていく。

   ジョンを描いたドキュメンタリーには秀作「イマジン」(Imagine、88年)がある。彼の不幸な生い立ち、ビートルズ時代、ヨーコとの出会い、子育てに専念した主夫時代、そして死に至るまで、彼の人生を完璧に描ききった作品と思っていた。しかし本作が映し出す、FBIによる監視、ビザ取り消しといったアメリカによるジョンへの敵視は「イマジン」にはないもので、その点では一見の価値ある作品と言える。ただ残念であったことは、「6月4日に生まれて」の作者でベトナム帰還兵のロン・コビックなど注目すべき人物の証言もあったとは言え、ほぼ全般がヨーコへのインタビューにより構成されていること。「イマジン」とは異なり、ビートルズのメンバーや前妻シンシア、さらに二人の息子ジュリアン、ショーンらの証言が一切ないことだった。

 ドキュメンタリーとは事実そのものではなく、客観的な出来事の寄せ集め、つまり再構築された"事実"である。ある種のフィクションとも言えるドキュメンタリーに、より信頼性や中立性、そして奥行きを持たせるには、様々な立場から、より多くの人物に話を聞くことが必要なのではないか。「ジョンについて制作されたドキュメンタリーの中で、これこそがジョンが愛したであろう作品です」。プレス用資料の表紙に書かれたヨーコによる推薦文だが、私には本作がヨーコに過度にすり寄って作られた映画だという証拠のように思えてならなかった。

2007年5月

もう一人のカポーティ

インファマス(邦題未定)
Infamous
(M)

 「カポーティ」で昨年のアカデミー賞主演男優賞を見事受賞したフィリップ・シーモア・ホフマンの名演技がまだ記憶に新しいところだが、もう一人のカポーティが現れた。しかも同じように「冷血」を書こうとするカポーティが。

 「インファマス」は、「カポーティ」から遅れること約一年後に製作された。人気作家のトゥルーマン・カポーティがカンザスで起きた一家4人惨殺事件に目をつけ、事件を取材しようと獄中の犯人ペリーに接近する。彼との間に次第に親密な関係を構築していく過程、ペリーとのシリアスな面会を終えた後、NYに戻り彼から聞きだしたその不幸な生い立ちを社交のネタにする下りなどが前作と同様なのは、それぞれ別の伝記を原作としているとはいえ、同じ人物に起きた同じ出来事に焦点を当てているからか。プロデュースも務めた、カポーティを演じるホフマンの圧倒的な演技に感服しつつも、「カポーティ」を見た時感じたことは、実を言うと遊びのない重厚な芸術作品につきものの退屈さであった。

 一方、「インファマス」には見せ場が多く用意されている。例えば、奇抜な外見と行動のためカポーティは地元警察から反感を買ってしまうのだが、パーティーでNYのセレブゴシップを披露、持ち前の話術で人々の心を掌握し、これをきっかけに事件の情報を入手するようになる。とりわけ、「ハンフリー・ボガートを2回負かせた」カポーティが腕相撲でアルヴィン警部(ジェフ・ダニエルズ)の息子には負けてやり、警部自身には見事に勝つシーンは心憎いばかりだ。また、カポーティとペリー(ダニエル・クレイグ)の関係を同性愛とはっきり位置づけ二人に鉄格子の中で濃厚なキスをさせるところも「カポーティ」との大きな違いである。本作でカポーティを演じるのは、「ハリー・ポッターと秘密の部屋」のトビー・ジョーンズで、容貌もカポーティをうまく捉えているのだが、二人のカポーティを比べるとやはりホフマンに軍配を上げざるを得ない。しかしセリフの聞き取りが非常に困難であったホフマン版カポーティに比べ、ゲイであったカポーティの癖のある喋り方を適切に捉えた上でより理解しやすい発音であったトビー版カポーティには個人的に好感が持てた。
 
  「カポーティ」が高級な芸術作品とするならば、「インファマス」はさしずめ観客を意識し、様々な仕掛けと工夫を施した娯楽作品。「映画は芸術である前に娯楽である」と認識している筆者としては、作品全体を比べると、後者に一票入れたいところ。

2007年4月

かっこ悪いけど、最高のお父さん

シックスティ・シックス
Sixty Six
(M)

 昨年の2006年サッカーワールドカップ。32年ぶりのワールドカップ出場に我らがオーストラリアは大会期間中大いに盛り上がったが、このお祭騒ぎに取りつかれるのは何もオーストラリアに限ったことではない。地球全体が四年に一度はサッカーボールを追いかけて回ることになるのだ。 

 作品の舞台は四十年前のイングランド大会前夜。12歳のバーニーは、ユダヤ教のお祝いバーミッツバー(成人式のようなもの)の日を心待ちにしていた。沢山の招待客を招きプレゼントをもらうお祝いの日を夢想するバーニーだったが、父(エディ・マーサン)の商店の経営が傾き、祝宴の規模は縮小せざるを得なくなってしまう。さらに、何としたことか、バージッツバーの日とワールドカップ決勝戦の日が重なってしまい・・・。

 イングランドチームが試合を勝ち抜く度に国全体が歓喜の渦に包まれる中、あの手この手で孤軍チームの敗退を切望するバーニーが健気で可愛い。そんな息子を見守る父を演じるのがエディ・マーサン。ずんぐりむっくりで薄い頭髪、車のカギを掛け忘れてないか、ストーブを消し忘れてないか、小さなことばかり気にしている小心者。美貌の妻(ヘレナ・ボナム・カーター)に愛されながらも、体格が良く弁も立つ共同経営者の弟に引け目を感じている、絵に描いたようなイケてない、かっこ悪いお父さんだ。一家は大手スーパーの進出で商売替えを強いられ、さらにはフーリガンの暴動で家が燃えてしまうという不幸にも見舞われる。一方、バーニーの祈りも空しく、イングランドチームが決勝に進出、招待客からは欠席の連絡が相次ぎ、祝宴が惨憺たるものになってしまった時、ダメダメお父さんは我が子を元気づけようと消沈しきったバーニーを突如決勝戦のスタジアムへと連れて行く。さっきまでの小心者振りが嘘のように、無茶な運転でスタジアムに駆けつけ、超満員のスタジアムでイングランドのワールドカップ優勝の瞬間を息子に見せてやる父。それまで悪の権化よろしく憎しみの対象だったイングランドチームの勝利を心から喜ぶバーニーの表情がいい。こんな瞬間、そうそう人生で起こるものではない。歓喜する親子の姿に涙が流れた。まだ30代なのだが、見事な老けっぷりのマーサン。「M:i:III」、「マイアミ・バイス」など近年大活躍の彼が本作の立役者であることは間違いない。

 この作品は監督ポール・ウェイランドの自伝に基づく。大切な祝宴の日がワールドカップ決勝戦と重なってしまったことは一見すると不運な出来事のようだが、結果的には月並みなお祝いより価値があったといえる。家族みんなで見て、温かい気持ちになれる良作が一本できたのだから。



2007年3月

家族と故郷を守ろうとした男たち

硫黄島からの手紙
Letters from Iwo Jima
(M15+)

 硫黄島とは本土から南に約1250キロの地に浮かぶ最南端の日本領。第二次世界大戦末期、アメリカ軍が上陸し、この小さな島は激戦地となった。61年後の現在、地下要塞の地中から300通の手紙が発見されるところから物語は始まる。

 戦局がいよいよ困難な状況となる中、硫黄島に1人の指揮官が着任する。栗林中将(渡辺謙)はアメリカ留学経験も持つインテリで、軍の旧態依然としたやり方を次々と刷新、西郷(二宮和也)ら若い兵士の信望を集める一方で、伊藤中尉(中村獅童)を初めとする旧体制陣の反発も買っていた。そんな中、ついにアメリカ軍が上陸を開始する。「生きて本土を守れ」と命ずる栗林。その命令に従う者、玉砕する者、そして投降する者がいる中、戦争は終結を迎えようとしていた。

 本作はクリント・イーストウッド監督が日米の視点から硫黄島の戦いを描いた硫黄島二部作の一作である。一つの事象を二つの視座から、ましてやその視座が往々にして対極的となる戦争を、二部作で描こうとするイーストウッド監督の卓越した着眼点に、作品を見る前から敬服していたが、その思いは全く裏切られることはなかった。日本人から見た戦いを描く、このアメリカ人監督の視点には驚くほどバイアスがない。ロス五輪馬術競技金メダリストのバロン西中佐(伊原剛志)にアメリカ人捕虜の手当てをさせながら、アメリカ人兵士には過酷な戦いに耐え切れず投降した清水(加瀬亮)をあっさりと射殺させる。また、日本を代表する旬の男優陣の演技はもちろん素晴らしいのだが、戦闘シーンが非常に激しくリアルなのに対し演出は抑え気味で、時にはぐらかされたような気にさせられる。それはしかし、中立的な視点を持つ監督が観客に明瞭で一様なテーマを押しつけることを潔しとしないからなのだと理解した。監督が提示したメッセージを観客が自分なりに消化して初めて作品が完成する。そしてその時こそ、あの届かなかった手紙が配達されたことになるのかもしれない。見る側の努力も必要とされる作品だが、映画とは本来そうあるものだと思う。

 ところで筆者は栗林中将と同じ長野市の出身である。お国自慢となってしまうが、季節ごとに表情を変える緑の山々はいつも心の中にある。南の島の地下要塞で、故郷の家族と山々を思いながら手紙を書いていた彼の気持ちを思う。かけがえのない家族と故郷を守るため命を落とした無数の兵士がいた。大昔の話ではない、ほんの61年前の出来事だ。

 

特別編 シルベスタ・スタローン

「ロッキー・ザ・ファイナル」(Rocky Balboa)

「ロッキー・ザ・ファイナル」(Rocky Balboa) オーストラリアプレミアにスタローンが登場

 ハリウッドスター、シルベスター・スタローンが自ら監督・脚本・主演したロッキー・シリーズ第6作となる「ロッキー・ザ・ファイナル」のプロモーションのため2月16日夜来豪、翌17日夜、開催中のオープンエアシネマのクロージング作品ともなった、同作品のオーストラリアプレミア上映会に姿を見せた。

 現在プロモーションのため世界各国を訪問中のスタローンの今回のオーストラリア滞在は約一日という過密スケジュール。にもかかわらず、シドニー空港到着の際にはスタローンが持ち込み禁止物(地元メディアは筋肉増強剤と報じた)を所持していたため、税関で2時間も足止めを食ってしまうという一幕もあった。

 さてさてプレミア上映会に話を戻そう。ハリウッドスターが現れるとあって当日集まったメディアの数は半端ではないことに加え、熱狂的なロッキーファン達も多数駆けつけスタローンの登場を待っていた。7時には必ず所定の場所につくようにとの主催者からの指示はあったが、大半のメディアもファンもそれよりかなり早くから待機していたことは言うまでもない。しかし、他のセレブ招待客が到着後、7時を過ぎ8時を過ぎても一向に姿を見せないスタローン、さては税関での一件でこちらにもしわ寄せが来たのかと危惧したその時だった。

 遠方で「ロッキー!」という歓声が上がり、スタッフに囲まれたスタローンがゆっくりとレッドカーペットを歩いてくる。各メディアのインタビューに応じたり、サインを求めるファンに気軽に応えながら近づいてくるスタローン。黒のニットにジーンズという寛いだ格好のスタローンは思ったよりずっと小柄。熱狂的なファンではないが、「ロッキー」シリーズの新作が封切られる度に劇場に足を運び、フィラデルフィア美術館では大階段を駆け上がってあの名シーンを体験してみた筆者だけに、やはり興奮してしまった。スタローンがちょうど正面に来た時、周囲のメディアに四方から押しつぶされ軽く身の不安を感じたが、これをいいことにスタローンのニットにちょっとだけ触っておいた。

 レッドカーペットの後、作品上映前にスピーチを行い、早々に会場を後にしたスタローンではあったが、ビックスターの登場に観客は大満足、その後の作品上映を楽しんでいた。「ロッキー・ザ・ファイナル」(Rocky Balboa、レイト:M)は2月22日より公開予定。


サインを求めるファンに気軽に応じるスタローン

 

2007年2月

特別編 「バベル」(Babel)出演女優、菊地凛子本誌独占インタビュー

この作品に出て、恋することに臆病でなくなりました
人を愛することに自由になれた気がします

 カンヌ映画祭での最優秀監督賞を含む3部門受賞を皮切りに、米映画批評会議賞、米ゴールデングローブ賞など、数々の映画賞に輝いている話題の新作映画「バベル」。作品の中で展開する複数の物語のうち、東京を舞台にしたストーリーで役所広司とともに重要な役割を演じた若手女優菊地凛子は米映画批評会議賞新人女優賞を受賞、米ゴールデングローブ賞では助演女優賞にもノミネートされ、アカデミー賞のノミネートも有望視されている。本誌編集部は1月15日の米ゴールデングローブ賞授賞式を目前に控えた菊地凛子への独占インタビューに成功、作品への思いを語ってもらった。

1年間続いたオーディションは1,000倍の難関
「米映画批評会議賞新人女優賞は大変光栄に思っています。でも、ゴールデングローブ賞ノミネートについては正直実感がわかないんです」
 激しい感情をむき出しにしていたスクリーンでの彼女とは裏腹に、歴史ある映画賞受賞の感想に答えた第一声は柔らかく落ち着いていた。
「作品のオーディションは1年間に渡り何回も繰り返されました(通常オーディションは長くても1〜2ヶ月)。異例の長期オーディションは精神的にとてもきついものでしたが、瞬発力とは違う、演技における集中力や持久力を学ぶことができました。とても良い経験だったと思います。1,000倍の難関を勝ち抜き、最後にこの役をいただけた時はとにかく素直に嬉しかったですね。感動しました(笑)」

大好きなケイトとの共演 
 聴覚障害を持つ高校生チエコを演じた菊地。聴覚障害者の役を演じるため、手話を勉強したり、ろう学校へ通って「実際の生徒達がどんな格好をしているか」研究したりと、役作りに励んだ。その演技は共演者のケイト・ブランシェットをして、「本当に耳が聞こえないのかと思った」と言わしめたほど。昨年末、シドニーで行なわれた「バベル」のオーストラリア・プレミアに姿を見せたケイトは本誌記者に対し、「凛子の演技は大胆で個性的。しかも二面性がある。壊れそうでいて悪魔的な要素を持っている」と菊地の演技がいかに素晴らしいかを熱く語ってくれた。その時のケイトの絶賛ぶりに彼女は大喜び。
「嬉しいですね。ケイトは昔から尊敬してきた大好きな女優さんです。撮影中は会うことがありませんでしたので、カンヌ映画祭で彼女に逢えるのをずっと楽しみにしていました。授賞式の日、真っ先に私のところにやってきてくれて、"凛子の演技良かったわ、素晴らしかったわよ"と言ってくれたんです。体の芯がじ〜んと暖かくなった瞬間でした。さらに今日は、私のいないところでも、ケイトがそんなふうに私のことを褒めてくれたと聞き、嬉しいです。これから頑張るための力になりますね」

作品への思い
 リアルな演技とともに注目を集めたのは、彼女のヘアヌードシーン。孤独なチエコは周囲の関心を惹こうと自らの肌を露にする。ヘアヌードになることに抵抗はなかったのだろうか。
「あのシーンは作品になくてはならない必然的なものでした。抵抗は全くなかったですね。それに、もともと女性の裸はとても美しくて綺麗なものだと思っていますから」
 ヌードになることを躊躇させなかった、作品への揺ぎない信念の基盤となったものはアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督への強い信頼感だった。
「監督と仕事をした全ての時間が学びの時でした。監督は、子役を始め全ての俳優に敬意を払い、常に暖かい気遣いをする人で、この人なら信頼できると思いました」
 父親役を演じた共演者の役所広司については、
「映画が大好きな私にとって、役所さんと言えば大スター、スクリーンの中の人です。難しい関係の父娘を演じたため、役所さんはカメラが回っていない時も私との間の緊張感を維持するため、何かと気を遣ってくださいました」
「作品の中で描かれるいくつかの物語のうち、"日本"は核となるストーリーです。今回作品の宣伝のため、様々な国へ行き、いろいろな人達と逢い、自分の中にあった外国に対する先入観がなくなりました。映画で込められたメッセージ、"心の中に国境はない、言葉より大切なものがある"を実感しています。一人の女性としては、恋することに臆病でなくなった、人を愛することに自由になれた気がしています」

映画にとらわれて
「家族みんなが映画好きで、私も小さな頃から映画とともに成長しました。映画が全てを教えてくれたと思っています。だからスカウトされた時、まず始めに思ったことは"私にも映画ができるかな"ということでした。デビューは1999年の「生きたい」(新藤兼人監督)で、それ以後も映画を中心に活動しています。映画にとらわれて生きているんですよ」
 数年前、東京のミニシアターで見た映画が今でも心に残っている。その作品は、寺島進主演の「空の穴」(熊切和嘉監督)。ヒロイン妙子を演じたのが菊地だった(当時の芸名は菊地百合子)。寺島演じるトラウマを抱えて大人になれない男を、男に捨てられた妙子が母のように癒し包み込む。ゆるくて、曖昧で、かわいい女、妙子。強烈で、明確で、激しさを感じさせるチエコとは対照的だ。妙子とチエコ、役作りを越えた菊地自身のキャラクターにも通じるところがあるように感じてならない。「空の穴」以降、何か転機となるような出来事が起こったのだろうか。
「う〜ん、そうですね、あったと思いますよ。私はアングラ系と言われる作品を中心に出演してきましたが、映画出演を重ねる度に、女優としての枠を超えて、人間として私の中に激しさや、諦めない強さが蓄積されてきたように感じます。また、映画のプロモーションのため各地を訪れる度に観客の皆さんからの反響を受けるわけですが、そういった励ましも私のエネルギー源となっているんだと思います」
 彼女の中に少しずつ蓄積されていた激しさが、大きな力となってついに「バベル」で花を開かせたのだろう。

オーストラリアで乗馬を
「オーストラリアにはこれまで仕事で2回行きました。そのうち一度は千葉ロッテマリーンズのキャンペーンだったのですが(菊地はマリーンズのTVCMにOLよしこ役で出演、人気を博している)、広い大地と青い空がとても印象に残っています。ヘリに乗ったり、ボートに乗ったりとても楽しかったですね。機会があったらぜひまた行きたいです。私は乗馬が趣味なので、今度行った時には思い切り乗馬をしたいですね」
 オーストラリアにはとても良い印象があるのか、とたんに声がはずんできた。権威ある映画賞受賞やノミネートで一気に世界の注目の的となったが、そこに気負いや傲慢さは全くない。インタビューを通して感じられたのは、礼儀正しい人柄と映画への情熱とこだわりだった。

バベル
Babel

「アモーレス・ペロス」「21グラム」のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品。今回も複数の場所での出来事が複数の時間軸に沿って描かれ、それぞれの物語が次第に交差していく。舞台はモロッコ、米国カリフォルニア州、メキシコ・ティワナ、東京・赤坂。出演は、ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ガエル・ガルシア・ベルナル、役所広司ら。母を亡くし父(役所)と二人暮らしのチエコ(菊地凛子)は聴覚障害を持つ高校生。友人と楽しい時間を過ごしながらも、彼女は母を亡くした痛みを抱えていた。(絶賛公開中/M)

菊地凛子(きくちりんこ)プロフィール
1981年1月6日神奈川生。1999年「生きたい」でデビュー。2001年には「空の穴」でヒロインを演じる。「茶の味」(2004年)、「誰がために」(2005年)、「ナイスの森」(2006年)、「笑う大天使(ミカエル)」(2006年)などに出演後、「バベル」でハリウッド進出を果たし、その演技で米映画批評会議賞新人女優賞を受賞、世界中から絶賛を受ける。


2007年1月

特別編 ケイト・ブランシェット・インタビュー

「バベル」(Babel)のオーストラリアプレミア上映会にケイト・ブランシェットが出席

 新作映画「バベル」のオーストラリアプレミア上映会が12月15日シドニーで行なわれ、主演女優のケイト・ブランシェットが姿を見せた。今や世界を代表する女優となったオージー女優のケイトだが、取材陣のインタビューにも気さくに応じ、ジャパラリア編集部も単独インタビューに成功した。同作品の共演者である日本の女優菊地凛子について、「彼女との絡みのシーンはなかったけれど、凛子の演技は大胆で個性的。しかも二面性がある。壊れそうでいて悪魔的な要素を持っていると感じた。(菊地は聾者の役を演じたが)彼女は健常者であるとスタッフから100回聞いていたのに、本当に耳が聞こえないのかと思ったほど。日本の皆さんは彼女を誇るべきです」と大絶賛だった。シドニーモーニングヘラルド紙やデイリーテレグラフ紙など大手メディアも多数いたにも関わらず、ジャパラリア編集部の質問に最も時間をかけて答えてくれたケイト。その美しさだけでなく、彼女の人柄の良さにも触れ、もともと好きな女優の一人であったが、すっかり魅了されてしまった。


気さくにインタビューに答えてくれたケイト


特別編 映画プロデューサー・ 作間清子さん

一過性でない、未来につながる作品を作りたい

 「子供の自殺が頻発している現代の日本。世界では今この瞬間にも各地で戦争が続いています。軍事工場の空襲で命を落とした、未来ある3千人の子供たちを描くことで、命の尊さを訴えたいと思ったんです」

 先ごろ大盛況の内に幕を閉じた「日本映画祭」。10周年を迎えた記念すべき同映画祭のクロージング作品として選ばれたのが作間さんのプロデュース作品「早咲きの花」(Forget-Me-Not)だ。来豪は今回が2回目。前回は2年前の第8日本映画祭に前作「ほたるの星」が出品された時で、この「輝く女性たち」へも再度の登場となる。

 「早咲きの花」は、ヒロインのピンホールカメラマン(浅丘ルリ子)が失明を宣告され、自身が幼い時代を過ごした故郷の豊橋を訪れるところから始まる。レンズを使わず小さな穴から入り込む光で写すピンホールカメラ。デジカメが主流の現在、原始的ともいえるそのカメラは非常に印象的に作品に登場する。「動くものは写らないカメラ。科学が進みすぎた今、本当に残っていくものは何だろうかと考えさせられました。毎年200本余りの日本映画が製作されていますが、一過性でなく未来につながる作品を作りたいと思っているんです」。

 友人の誘いでスクリプターの仕事につき、30年現場でたたき上げた。その間、結婚、出産を経たが、「仕事を辞めるなんて考えもしませんでした。主人を始め周囲の協力があったからこそ続けられたのですが、修羅場は何度もありましたよ。出産後3年間は子育てに集中するため仕事を休みましたが、人間関係をつないでおく努力は怠りませんでした」。

  そして数年前にスクリプターからプロデューサーへと転身。同時に映画製作会社「シネボイス」を設立し、社長に就任した。「スクリプター時代、こうしたらシナリオがもっと活きるのにと思うことが何度もありました。もっと大きな範囲で自分の力を発揮してみたかったんです」長年のキャリアがあったとはいえ、プロデューサーへの転身はそう容易なものではなかっただろう。「やりたいという思いを捨てないこと。思い続けることで環境が整い、チャンスがひゅっとやってくるんです。チャンスが来たらそこをぱっとつかむ。あきらめたら、終わりですよ」。

 プロデュース2作目となる「早咲きの花」。菅原監督とも再びコンビを組むことになった。「スクリプター時代に出会った監督は、諦めようとするといつも背中を押してくれる、私の一番の理解者ですね」。他にも沢山の出会いがあった。「ヒロイン役を浅丘さんにお願いできたのは本当に嬉しいことでした。作品の中で輝きすぎる過去に負けない現在を受け止めることのできる女優さんは彼女以外にいませんでした。撮影は真夏でしたが浅丘さんは弱音を吐かないどころか、汗を全くかかないんですよ(笑)」。また本作は豊橋市市制100周年記念作品でもあるのだが、「豊橋市出身の喜多郎さんには当初音楽をお願いすることでお話をしていたのですが、彼が手筒花火の愛好家であることがわかり、作品中で手筒花火を上げることを条件に(笑)、盲目の花火師役で出演していただけることになりました」世界的なミュージシャン喜多郎氏の俳優デビューはひょんなことから実現したようだ。

  映画を作っていて一番嬉しい瞬間はと聞くと、「撮影中、何か起こったら積み上げてきたことが全てゼロになる。ケガも病気も無く、お天気にも恵まれて撮影が無事終了した時が何より嬉しいですね。後のことは全てコントロールできますから」と現場でたたき上げた人ならではの答えが返ってきた。シドニーでの一週間足らずの滞在を終えての帰国後は12月26日からの劇場公開(銀座テアトルシネマにて)が控えている。「過去の出来事でも、自分に関係ない出来事でもないんです。劇場公開時には48回の舞台挨拶を予定していますが、できるだけ多くの人に見ていただきたいと思っています」。まだまだ過密スケジュールが続きそうだが、敏腕プロデューサーは微塵の疲れも感じさせず屈託無く笑った。

 

     早咲きの花 (Forget-Me-Not)

ピンホールカメラマンのシュナイダー三奈子(浅丘ルリ子)は失明を宣告される。彼女が最後に目に焼き付けようと選んだのはかつて家族とともに過ごした故郷豊橋。三奈子の回想は、兄や友人達とともに野山で過ごした瑞々しい思い出から始まり、激化する戦況とともにつらい思い出にも及んでいく。そして運命の日、豊橋海軍工廠空襲の日を迎えるのだった・・・。







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